心を癒すお花の話
四季のある国に暮らしていると、季節ごとに、その姿かたちや色、香りで、私たちを楽しませ、元気
づけ、癒してくれる草花たちとの出会いに恵まれます。
これは、そんな草花をこよなく愛する私がお届けするメッセージです。
聖母マリアの黄金の花 マリーゴールド
風薫る5月頃から咲き始め、枯葉の舞い散る頃まで約半年間、鮮やかで元気いっぱいの黄色や
橙色の花を太陽に向かって咲かせるマリーゴールド✿ その愛らしい姿は庭や公園などで見
かけることが多いと思いますが、根には農作物などに被害をもたらす線虫を防除する効果があ
ることから、コンパニオンプランツとして作物の間などに植えられることもあります。
〝 マリーゴールド 〟という呼び名は、聖母マリアの祭日に、いつもこの花が咲いていたためとさ
れ、『 聖母マリアの黄金の花 』 という意味です。
さて、この花には、遠い昔、私が小学生の頃の〝 母の日 〟 の思い出があります。 妹と2人で
近所のお花やさんに行って、母へのプレゼントにどのお花を買おうか ・・・と迷っていた時に、ぱっ
と目についたのがこのマリーゴールドでした。

この花の鮮やかなオレンジ色が、いつもはつらつとして元気な母のイメージにぴったりだったのです。
「 母の日のプレゼントなのね ! 」 と言って、小さな花の苗を綺麗にラッピングしてくれたお花やさんの
お姉さんの優しい笑顔、「 ふたりで選んでくれたんだ。 可愛いお花をありがとう! 一緒にお庭に
植えようね。 」 と言って受け取ってくれた母の満面の笑み…。 私にとっては幸せな〝 笑顔 〟の思
い出の花の代表といえます。

ところが、この花の花言葉には、見た目のイメージとはかなり違うネガティブなものがあります。
「 信頼 」 「 勇者 」 「 生命の輝き 」 「 変わらぬ愛 」 「 可憐な愛情 」 「 健康 」 に対して、
「 嫉妬 」 「 絶望 」 「 下品な心 」 なんていうのもあり、ちょっと驚いてしまいます。
こんなことが起こる原因のひとつには、花言葉は、キリスト教の文化圏で発信されているものが
多いということがあります。 キリスト教では、黄色は裏切り者ユダの衣の色、不吉な色として嫌
われることが多く、マリーゴールド以外でも、黄色の花にはネガティブな花言葉がつけられる
事が多いのです。

そしてもう一つ言えるのが、花言葉の大半は、ギリシャ神話のストーリーを元に考えられている
ことです。 マリーゴールドといえば太陽に向かって花を咲かせるもの、ギリシャ神話で太陽とい
えば〝 太陽神アポロン 〟… という事で、この神様に関連するお話が元になっているのです。
この〝 太陽神アポロン 〟 というのは、よほどイケメンだったのか、たくさんの女神や妖精たち
に恋心を寄せられていました。 そんな中のひとりの水の妖精が、当時アポロンと恋仲だった
王女に激しく嫉妬したことからの告げ口で、この王女の命を奪う事になってしまったのです。
自分の醜い嫉妬心による行いを恥じた妖精は、地面に座り込み、それでもなおアポロンへの
一途な思いを断ち切れずに見つめ続け、やがて太陽に向かって咲く黄色い花になったといい
ます。 なんとも愚かで儚いお話ですね。

こんなお話を聞くと、私はなにやらマリーゴールドの花に、人間臭さのようなものを感じます。
どんな人の心の中にもある〝 陰と陽 〟〝 善と悪 〟…それはほんの紙一重であり、表裏
一体なものなのでしょう。
笑顔の陰にある深い苦しみ、愛から生まれる憎しや悲しみ…そんなすべての感情を秘めた
マリーゴールドの花は、元気いっぱいに美しく、愚かで儚い私の好きな花のひとつです。