心を癒すお花の話
四季のある国に暮らしていると、季節ごとに、その姿かたちや色、香りで、私たちを楽しませ、元気
づけ、癒してくれる草花たちとの出会いに恵まれます。
これは、そんな草花をこよなく愛する私がお届けするメッセージです。
孤高にして凛とした美しさ 竜胆(リンドウ)
美しい花の名にしては〝 竜胆 〟とはいささか不釣り合いな漢名のように思えるかもしれませんが、
これはこの植物が古代から生薬として使われており、その味がとても苦かったので、まるで竜の
〝 胆 〟のようだ … ということから名付けられたそうです。 もちろん竜 は想像上の動物なので、
その胆を味わうことはないですが、この漢字には、一番とか最上級という意味合いがあるのです。
青や紫、白の釣り鐘型の花は、晴れた時にだけ上向きに咲きます。 葉が笹に似ているので、
ササリンドウともいわれます。 自然の中でも群生することはなく、1株ずつ、1本ずつ花を咲かせ
るその姿には、孤高にして凛とした美しさがあります。

背丈が低いので、背の高い草が生い茂るような草むらではなく、草刈りなどで人の手が入り、日光の
恩恵にあやかれる水田の周辺や水辺などで自生していましたが、この頃はそんな姿を見かけること
も少なくなりました。
花言葉は紫という花色から 「 高貴 」 、楚々とした花姿から 「 誠実 」、その薬効から、病気に打ち勝つ
という事でしょうか「 勝利 」 などというものもあります。

さて、昔から私たちの生活の近くにあり、親しまれてきたリンドウは、家紋にも使われている植物です。
そして、竜胆紋といえば源氏の代表的な家紋です。 そこで、源氏といえば源頼朝…という連想が働
いたのか、鎌倉市の市章は頼朝の家紋といわれる〝 笹竜胆 〟が採用されています。
しかし、これは史実ではないようなのです。

それは、後世に作られた歌舞伎の 『 勧進帳 』 で、源義経が付けたことから、そう思われるようになったと
いうことのようで、竜胆紋はもともと、頼朝一族の源氏(清和源氏)のものではなく、他の源氏一族(村上源
氏・宇多源氏)のものだったそうです。
つまり、頼朝の妻北条政子が、野に咲くリンドウの花を摘んで頼朝に捧げ、愛の告白をした…というラブスト
ーリーとともに聞かされてきたこの2人とリンドウ、竜胆紋の逸話は、後世の人間の作り話だったようです。
しかし、学問として歴史から離れて、想像の世界に浸る時には、私には頼朝という人にはリンドウの花が
似つかわしく思えます。 それは、冷静にして時に冷血とまでいわれる頼朝は、リンドウの花のように孤高で
あり、また、孤高であり続けざるを得なかった人に感じるからです。
ですので、その頼朝が初の武士政権の本拠地として鎌倉幕府をひらいた今の鎌倉市が、どういったいきさ
つにせよ竜胆紋を市章に採用したこと、それは必然と思え、一人納得する私なのです。