心を癒すお花の話

四季のある国に暮らしていると、季節ごとに、その姿かたちや色、香りで、私たちを楽

しませ、元気づけ、癒してくれる草花たちとの出会いに恵まれます。

これは、そんな草花をこよなく愛する私がお届けするメッセージです。

たおやかに風にそよぐ優しき花房  藤(フジ)

春から初夏に移り変わる頃、まるで静かな雨が降り注ぐように、連なる花を垂れる藤

の花。 マメ科のつる性落葉低木で、蝶のような形の小花を房状に垂れ下げ、幹の

ほうから先端に向かって咲き進めます。 そんな特性から〝棚仕立て〟にされること

も多く、昔は我が家の庭にも小さな藤棚がありました。

日本には、ツルが時計回りに巻き、花が長く垂れさがる野田藤(ノダフジ)と、ツルが

反時計回りに巻き短めながら大きな花が咲く山藤(ヤマフジ)を主に数種自生してお

り、古くから園芸品種も作られてきました。 花色はいわゆる藤色ばかりではなく白も

あり、どちらもそれぞれに美しいものです。 また、花房が風にそよぐと、優しく甘い香

りがあたりにふわっと漂うさまにも、何とも言えない趣があります。

花言葉は 「優しさ」 「歓迎」 「決して離れない」 「恋に酔う」 などですが、優し気な花

姿や香り、意外なほど巻きつく力の強いツル、などから由来しているようですね。

日本では、古くから藤を女性に、松を男性にたとえ、これらを近くに植える習慣があっ

たそうです。  たしかに、たおやかに垂れる花姿は、振り袖姿のあでやかで優しい女

性を思わせるものがありますよね。

樹齢もとても長い木で、日本各地に何百年という古木があります。 中でも、埼玉県春

日部市の藤花園にある〝牛島の藤〟はなんと1200年あまりの日本最古の藤で、特

別天然記念物に指定されています。 ちょうどこの時期が見ごろと言われていて、たくさ

んの花房が紫のカーテンのように風にそよぐ姿はまさに絶景だそうです…。一度は訪ね

てみたいものです。

日本原産のこの花は、『古事記』や『万葉集』にも登場する花で、平安時代には多くの

歌の題材とされるなど、広く愛されてきました。 若い娘が黒い塗り笠に藤づくしの衣

装で藤の花枝をかたげている姿〝藤娘〟は、日本人形や羽子板の押絵でもおなじみ

ですね。

また、この藤娘の姿で演じられる歌舞伎舞踏『藤娘』は人気の演目の一つですし、日本

舞踊でも必須の演目と言えるでしょう。 小学校6年の頃、友人の日本舞踊の発表会に

招かれた時に彼女が演じたのもこれでした。

私はまだ頂いたことがないのですが、藤の花は油との相性がよく、房から外して天ぷら

にして食べられるそうです。 衣を薄付けにすると、花色の紫が透けてめにも鮮やかだ

そうです。 また、さっと茹でておひたしや酢の物にすると、爽やかな香りが広がるそう

で…食いしん坊の私としては是非チャレンジしてみたいものです。

〝藤〟というと頭に浮かぶのが『源氏物語』 の藤壺の女御です。 光源氏の父帝の後

妻、つまり彼の義理の母親です。 亡くなった母親の面影を持つ彼女に恋心を抱くよう

になった光源氏…やがて二人は道ならぬ恋に落ち…というかなりドロドロとしたお話で

すが、今なお色あせぬその魅力は、自然描写の美しさと、深い人間観察による心理描

写にあるように思います。

たおやかにして従順なイメージの裏に秘めた情熱的な一面…。 風にそよぐその花房を

ながめ、その香りに酔いしれていると、そんな女性の姿が浮かんできます。 そして、樹

齢1200年の藤が紫式部のように思えてくるようで…過ゆく春の一日をそんなことを思い

めぐらしながら過ごしている私です。


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